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【終了しました】伝統芸能と自然の関わりvol.5~コンゴ共和国の生物多様性から学ぶ~

2023年9月2日(土)実施

アフリカ中央部に位置するコンゴ共和国の森と、日本の伝統芸能はどのような関係があると思いますか?この講座では、コンゴの熱帯林の豊かさや貴重性、また、その地における生態系の中で非常に重要な存在であるマルミミゾウの密猟問題について、三味線のバチとの関連性から学びます。また、西原氏が長年に渡って取組む象牙管理制度への提言や、三味線業界への働きかけについてお伝えします。象牙に代わる新素材開発についても触れます。
伝統芸能だけではなく、身近な物や暮らしが、実は遠い国の生物多様性に影響を及ぼしていることについて考えを巡らせてみましょう。

日時
2023年9月2日(土)14:00~16:00(受付は13:45~) 
会場港区立エコプラザ
対象港区在住・在勤・在学の方を中心とした小学4年生以上の方(小学生は保護者同伴)※区外の方も参加できます
講師西原 智昭氏[星槎大学 共生科学部  教授/WCS(野生生物保全協会) 自然環境保全研究員]


【プロフィール】
コンゴ共和国などアフリカ熱帯林にて野生生物研究や森林保全に30年間従事。星槎大学共生科学部教授、WCS(野生生物保全協会)自然環境保全研究員。京都大学出身、理学博士。人類の起源と本質、地球環境保全、先住民族、エシカル社会等を問う。著書『コンゴ共和国〜マルミミゾウとホタルの行き交う森から』(現代書館2020年)など。

田村 民子氏(伝統芸能の道具ラボ主宰/ライター)


【プロフィール】
1969年、広島市生まれ。「伝統芸能の道具ラボ」主宰。「芸能道具ミライ研究室」共同代表。
伝統芸能の道具に関連した執筆、調査、復元、講演などを行う。2009年より能楽、歌舞伎などの「伝統芸能の道具」に携わる裏方や職人を支援する草の根活動「伝統芸能の道具ラボ」をはじめる。東京新聞に「お道具箱 万華鏡」を連載中(毎月第二金曜)。

定員20名(先着)
参加費無料
持ち物筆記用具

【当日の様子】
田村氏から、伝統芸能はテーマ・衣装の図案・道具の素材に至るまで、自然と密接につながっていること、今回焦点を当てる三味線は、国の重要無形文化財の芸能音楽に指定されているもののほとんどに使われており、日本の伝統芸能に欠かせない楽器であると説明がありました。
西原氏からはまず最初に、自然界にある虫の音、鳥の声、川の流れる音や葉のそよぐ音などの環境音は脳を活性化し、ノンストレスである超高周波成分を豊富に含むと解説があり、伝統芸能の楽器や民族楽器における周波数との共通点がグラフで示されました。次に、熱帯雨林におけるマルミミゾウの役割について学びました。マルミミゾウが食べた果実の糞により種子散布と自然森林再生、生態系維持がなされています。また、マルミミゾウが歩いたり泥を掘り食べることで作られるゾウ道や沼地は、様々な動物にとって効率よく採食場に行ける道、ミネラル分の確保につながっています。ですが、マルミミゾウの生息頭数は、過去10年間で62%が消失しており、その主な原因には熱帯林の縮小、食肉としての狩猟、象牙利用としての密猟が挙げられます。最近では熱帯林の縮小により、畑などがマルミミゾウに荒らされる問題も起こっているとのことです。密猟が続いている大きな原因として、日本における象牙の登録方法、本象牙から象牙製品までの不透明性、ネットショップでの管理不徹底など、その管理制度に多くの問題があることが挙げられました。
後半は、これらの問題をどのように解決していくべきか、ワークシートを使いそれぞれが考えました。参加者からは「ゾウと人間のエリアを分ける」、「電気柵を設ける」などの意見が出ました。講師からは、マルミミゾウは長距離移動をするため行動圏が広大であり、人間とのエリアを分けることの難しさや、熱帯林のどこから電気を引くのか、電気柵の周りに生えてくる雑草の整備など持続が難しいことなどの見解がありました。また、植林は野生動物の生息地回復にはつながらないため、野⽣動物を保全することで動物の種⼦散布による樹⽊・森林の再⽣が確保されるという、熱帯林⽣態系がセットとして保全されることが必要であり、その結果林業の永続的な継続も可能になると提言がありました。また、伝統文化とは何であるか、何を残していくべきかを改めて考えることに加え、熱帯林の伐採につながる安くてよい木材、石油、天然ガス、希少金属などを必要以上に求める私たち消費者の意識についても目を向け、様々な国際認証ラベルの知識を持ち消費行動を変えることも重要です。更に、三味線のバチにおいては、産官学⺠の連携による、象牙に代わる新素材開発が進められている現状と今後の課題について示されました。
私たちのこれからの行動が、伝統芸能の相続と環境と経済のバランスを保つことにつながると学びました。


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